モッツアレラチーズ2 玖拾伍

年を越し、春も近くなって、下宿先を変えた。今度は上京区高徳寺町の三木さん宅に間借りすることになった。体調を崩してから偶に通院しながら仕事を続けている。体調は回復せず、「みんな夢の中」の生活に陥っている。父の仕事が一段落しているので高知から出て来て引っ越しを手伝ってくれた。去年体調を崩して勤めを休んでからも昇華学会の会合に出席したり、冬には京都文化祭があって今度は合唱で出場した。文化祭まで極度に冷え込む京都の冬空の元、裸足でサンダル履き、体幹ボーリングの堀さんと練習場に通った。今度下宿先を変えたことで昇華学会との繋がりから離れることができた。父の配慮からである。部屋に無事ご本尊様を安置して、当面お勤めだけ続けることにしている。家主の三木さんは年配の1人暮らしの御婦人だが用心のために下宿人を置いているのである。ところが僕は用心棒としては甚だ頼りない人物である。テレビの時代劇では用心棒と言えば浪人をしている強面の侍で片手に徳利を持った無精ひげの不健康な感じであることが多い。「先生、ちょっと出て来ておくんなせーやし!」と言われて奥から現れ、懐手を大きく開いて、徳利の酒を一口含み、刀の柄に吹きかけて出入りを助けるあれである。三木さんは鶏を飼っており、時々卵をくれる。裁判所の勤めもこの春で2年になるので慣れてきたこともあり、服装もラフになっている。マクベスのスタジアムジャンパーに綿のチノパンという銀ギラ銀にさりげない格好で通勤している。三木さん宅を出て高徳寺の通りに出ると吐く息は白い。身震いしながら首にエリマキトカゲのように襟巻をしっかりと巻き付けて、たたたーと走って行く。裁判所について裏手の守衛室の前で守衛さんに挨拶をした。守衛さんに持ってきた茹で卵を上げるとたいそう喜んでいた。略式へと向かう通路で総務課のベテラン女性事務官三矢さんに出会う。挨拶をしたが僕の風体に驚いたのかちょっと眉をひそめた。略式の部屋についてカーディガンに着替え、相知君の横に座った。相知君は1年目ながらいいペースで仕事をしている。午前中に簡裁刑事の植野さんが松葉杖をついて部屋に入ってきた。僕は非常に驚き、目を丸くした。休暇中にスキー旅行に出かけて、ボーゲンからクリスチャニアに移る段階で転倒して骨折したということである。その後昼食を一緒にと思って内線で人事課の上田さんに電話をかけて誘ったが、刑訟の三浦さんと先約があるということで断られた。結局昼食は書記官研修から帰ってきている日野さんと一緒に烏丸丸太町のレストランに行った。日野さんは僕の食べ残しの皿を見て、「お前は食い方が汚いんや!」と注意をしながら野武士のように皿の料理をきれいに平らげていた。午後相知君に今日仕事が引けてから刑事課の森さんと一緒にバーに飲みに行かないかと誘われた。午後の仕事が終わり、相知君と森さんと僕の三人で四条河原町のバーに飲みに行った。京都の飲み屋街は上流、下流と祇園の高瀬川を境にして分かれていると糖尿病で通の丸山さんが前に言っているのを聞いたことがある。今日行くバーは高瀬川の西側、つまり下級のバーである。3人でバーに入り、5人掛けのテーブルに着くと若いきれいな女性が氷の入ったグラスと酒を盆にのせて持って来て、僕の隣に座った。森さんはあたふたしている僕と違い、落ち着いたマナーで女性に対応していた。相知君も人が変わったように大人びて見えた。やおらその女性は僕の頬に頬をくっ付けた。僕は「ほお!」と思ったが狼狽えていた。森さんは僕にチップを弾むように催促した。僕はなけなしの金を女性に渡した。森さんは僕の対応の不細工さにありありと不満の顔色を示していた。結局僕は女性と話していても上田さんの影がちらついて全然身が入らない対応だったからである。バーを出てさらにと森さんに誘われたが僕は最近欠食することも多く落ち着かなかったので断り、二人は夜の四条に消えていった。

お知らせ

遅いパソコンのスピードアップ!!

性能が低いHDDからSSHDやSSDに

ディスクのクローンで丸ごと引っ越し

OSの起動スピードが速くなる