モッツアレラチーズ2 玖拾壱

午前中の仕事が終わって昼休みになる。いつもは中野君と一緒に外に出るのだが今日は御所マラソンに参加することになっている。野球部の練習も昼休みに時々やるが今はシーズンオフになっている。トレパントレシャツに着替えて裁判所の中央から御所の門の前に集合した。御所の門の前から御所の周りを1周するコースは約4キロである。門の前の砂利の所にいつも走っている井口さんや本田さんの姿があった。少し遅れて若手の人事課の日野さんや会計課の笹井さんが来た。正午過ぎに総勢約20名が時計と反対周りに走り出した。トップを走る井口さんなど1周15分を切るタイムで走る韋駄天はあっという間に御所の東角を曲がって姿が見えなくなった。笹井さんなど鈍足ランナーのすぐ前を走っていると日野さんが靴の紐がほどけて括り直していた。僕が追いついていくと黒ジャージ姿の日野さんは余裕の笑みを浮かべてステップも軽く走り出していった。青息吐息で腕時計のタイムを伺いながら走っていた。いつも16分を切るか切らないかで走るふくらはぎの太い本田さんが前を走っていた。烏丸通に入る曲がり角のところで本田さんを交わしたがもう完全に息は上がっていた。ぜい、ぜい、ぜい、乳酸との戦いは後300mはあろうか。ゴール!16分52秒。タイムを計っている人が告げた。後からゴールした本田さんが僕に「16分切れへんかったの!」と若いのにという感じで不満そうに言った。走り終わった日野さんがさすがに疲れた表情で「こんな体力ではあかんな!」とちらり僕を見た。しかし、日野さんは15分そこそこのタイムを出していた。走り終わってシャワー室で体を清めてから略式の部屋で仕出し弁当を食べ、午後の仕事に入った。終業チャイムが鳴っても今日は中野さんは帰らない。僕と一緒に会議室での勉強会に出席するのである。勉強会は書記官研修を受けるための試験に向けてのものである。毎回数名が参加している。チューターは日野さんが務める。日野さんは上級甲種合格者である上に阪大で法律相談部に所属していたからである。日野さんは自動的に書記官研修所1部に来年入所することになっている。他のメンバーは略式の中野君、人事課の上田さん、会計課の笹井さん、総務課の山際さんであった。毎回日野さんがテーマを決め、担当者を割り当ててレジュメを作り、日野さんの拾い出した論点について討論するという形式で進められていた。日野さんは「ここに一人の性悪女がおったとする」と上田さんの顔を見ながらわかりやすい実例を引いて論点を浮き彫りにしながら進めていくというやり方であった。僕は勉強会では上田さんの表情などが気になって考えに身が入らなかった。法律論に熱のこもった日野さんに対し他の参加者はいまひとつ討論での歯切れが悪かった。笹井さんが僕に憲法の議論の時は上田さんの「覚道節」が聞けると言っていた。上田さんは卒論を覚道教授の説でまとめたのかもしれない。90分の勉強会が終わって、裁判所前の本屋によると先に上田さんがいた。上田さんは帰り四条河原町によると言っていたので僕も一緒に付いて行った。僕は歩きながら上田さんに自分が御所マラソンに参加したということで上田さんにもスポーツをするように勧めた。上田さんはお母さんが椅子に座って上半身だけ動かしているという例を引いてスポーツに気乗りがしない感じだった。にもかかわらず僕がしつこくスポーツを賛美していると「スポーツををしないとそんなに異常!」と話を切った。話の合わなさに唖然としながら僕は無言でとぼとぼと上田さんに付いて行った。四条河原町にある「築地」という喫茶店に入った。喫茶店でコーヒーが運ばれてくる合間に上田さんと腕相撲をした。体力はあるかと挑発したのである。僕は大人げなく全力で戦った。試合開始後しばらく上田さんは持ちこたえていたが、「むりやー」と言ってテーブルに手が付いた。僕は細腕の上田さんが意外に力があるのに驚きながら自慢げにウエイトレスの運んできたコーヒーに手を添えた。上田さんは河原町3条の駅からJRで長岡京市に帰って行った。   

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