モッツアレラチーズ2 捌拾陸

昭和56年4月1日裁判所職員として京都地方裁判所へ初登庁する日だ。もう勤め人なので勝手気ままなスケジュールは許されない。朝6時半に起床し、朝のお勤めを済ませた。近くの食料品店で買ってきた食パンにポテトサラダを挟んで軽い朝食を取った。裁判所に勤めるにあたって下宿を 変えた。同じ北区だが上賀茂から紫竹へと移動した。大塚さんという1人暮らしのおばさんが家主で2階を3部屋貸している。僕の左隣の部屋に島田君という同志社大工学部の3回生、右隣に後藤君という京都産業大学の学生が部屋を借りている。勤めるに当たって新調したグレーのスリーピースを着て、8時に家を出た。地下鉄烏丸線の北大路駅まで繋ぐバスに乗るために大通りまで10分ほど歩く。バスから降りて地下鉄烏丸線に乗り換え、烏丸丸太町まで行き、電車を降りた。丸太町の大通りの歩道を左手に御所の緑を感じながら京都地方裁判所まで歩いた。丸太町通りを横切る横断歩道を渡って、裁判所の正門に着いた。3段ほどある大理石の階段を上り円柱を両側に見ながら所内に入った。リノリュウムの匂いのする油を引いた木製の階段をぎしぎしと3階まで登り、階段を上って右手にある人事課に入った。人事課には採用されるにあたって何度か来たことがある。部屋に入って任用係の上田さんに声をかけた。上田さんはまだ職員になって1年ほどの若い女性である。中肉中背で眼鏡をかけていた。快活に挨拶をするので気持ちの良い人だと思った。上田さんの話では今日は関係部署に挨拶回りをしてから勤め先である京都簡易裁判所の略式係の部署で明日からの勤務について説明を受けるということであった。準備ができるまで控室で待っていてほしいという。控室にはすでに今年上級甲種で入所する阪大出の人が待っているということだった。控室に入ると茶色のスリーピースを着た僕よりは少し小柄な男が出された茶を飲んでいた。「上級甲種の方ですね。隣に腰を掛けてもいいいですか?」というとその男は「座れや!」と言った。「失礼ながらお名前は」と聞くとその男は「日野や!よー覚えとけや!」と言った。日野さんは近藤正臣似の甘いマスクをした水泳部の男だった。日野さんは上級甲種なので中級の僕とは当然あいさつ回りをするところが違う。流石上級甲種のエリートは幕下付け出しより上の人事課給与係からスタートするという。人事課の樋口さんに連れられてタイピストや廷吏の人達、簡易裁判所の刑事部と民事部の裁判官に挨拶をしてから裁判所の別棟の1区画にある簡易裁判所略式係の部屋に連れていかれた。略式係の前にあるベンチには交通の反則切符を切られて来た人がたくさん座って待っていた。部屋に入ると忙しそうに仕事をしていた4人の男性が手を止めた。樋口さんが「今日からこの部署で勤務することになる浦成君です。」と僕を紹介してくれた。4人の男とそれぞれあいさつを交わした。入り口から見てコの字型に組まれた机の奥の席でエコーを吸いながら書類にハンコを押しているのが裁判官の辻野さん。手前で書類を綴じ紐で綴じているのが主任書記官の福島さん。机に座ってカーボン紙を敷いて薄い用紙に何やら書いているのが円山書記官。僕が座るための空席の隣で反則切符を捲りながら日付印を押したり事件簿に記録を書き込んだりしているのが中野事務官である。中野事務官は去年関西大学を卒業して僕と同じ中級職で入所したという。僕は中野君がやっていた仕事を引き継ぐことになっているらしい。最初やる仕事は道路交通法違反で切符を切られた事件の処理をする仕事それから事件簿に事件番号や日付を記載していく仕事、業務上過失傷害などの軽微な事件の略式命令を書いて、裁判官のハンコをもらうことなどだということである。4人とも比較的穏やかそうな人柄の様なので少し安心して初登庁の日は過ぎていった。

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