モッツアレラチーズ2 漆拾壱

春うらら、京都もほんのり花化粧。同志社大学も3回生となり在学浪人気分も消え失せて行った。だが相変わらずポテトサラダを挟んだ食パンを温かいココアで胃の腑に流し込むように遅い朝食を取り、カセットラジオのスウィッチをオンにした。ラジオからは京都放送のパーソナリティである千秋の声が聞こえてきた。千秋は聴取者から送られてきたはがきを読んでいた。「猪木負けそう!」というフレーズが話題になっていた。これは日本プロレスでタッグマッチの最強コンビであるアントニオ・猪木とジャイアント馬場(別称ジャム・アンコ・パパ)の試合の話である。外人レスラーとの試合で通常猪木が先にリングに降りて戦う。外人の悪役レスラーの反則などによって猪木がピンチになり負けそうになるとタッチをして馬場が出てくる。この猪木が負けそうになると馬場が出てくるというのが「猪木負けそう!」のフレーズの元なのである。何となく心に残る話題だった。母屋から離れた所にあるトイレに用を足しに行き、部屋に帰る途中で兵庫荘の住人だが名前を知らない若い男に声を掛けられた。この男は兵庫荘の別棟に住む伊藤という男だった。伊藤は京都産業大学の3回生で台湾の先住民のタカサゴ族の研究をゼミでしていると言っていた。別棟は6部屋あるが今度卒業生が出たので2部屋開いているが、母屋から移らないかという話だった。伊藤に案内され別棟の 空いている部屋を見せてもらった。別棟は同じ4畳半だが作りが新しいので母屋の部屋よりも心持狭く思えた。一番北の部屋は隣が1部屋なので騒音などは少なそうだが日が差さず寒々としていた。考えておくということで話を終え、部屋に戻った。別棟に移ろうかという考えが支配的になってきた。学校の授業にほとんど出席しない生活が続いていたので、日頃話をするのは母屋の川村君か一乗寺に住んで居る浪人生の山口君ぐらいなので話し相手が増えるかもしれないと思うからである。3回生になって真面目に通学して受講するという立ち直りの生活をしなければなどとはつゆ思わなかった。伊藤君に色よい返事をしようと思って別棟に行った。別棟の2階に上がる階段のところで歌謡曲が流れているのが耳に入った。岩崎宏美の「ロマンス」だった。音楽が聞こえてきている部屋をノックすると「はいりゃーええで」とテレビタレントの南利明のような名古屋弁が聞こえた。ドアを開けて部屋の中を見るとダイヤトーンのスピーカーから岩崎宏美の透き通ったパンチのある歌声が流れていた。伊藤はかなりハンサムで足が長く背も高い。ウール地の赤と黒のチェックの厚い上着を着て炬燵に入り、ショートホープを眉間にしわを寄せながら燻らせていた。別棟に移りたい旨を伝え、「北の部屋でもかまへん?」と僕が聞くと「どっちでもえーでよー」と伊藤は答えた。明後日引っ越すことにして部屋を移ることを家主のおばあさんに伝えた。おばあさんは「いとさんはマージャンするからな!あんた、一緒になってやらんときや!」と迷惑そうに答えた。部屋に戻ってから引っ越しでいらないものを片づけた。

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