モッツアレラチーズ2 陸拾伍

9月に入り夏休みももう終わりで京都に帰ってきている。裏山ではつくつくぼうしがまだ鳴いている。隣の部屋の物音で目が覚めた。パチリ、パチリと将棋の駒の音と話声が聞こえる。低い声で「ここは2・6金でしたか」。西隣の宮地さんの部屋からだ。宮地さんは京大の3回生で将棋の同好会か何かの部会で将棋を指しているらしい。南隣の部屋は宮本さんという京都産業大学の2回生だ。下宿では川村君と時々話をするがほかの人と口を利くことは少ない。もちろん別棟の下宿生は顔さえ知らない。昼近くに洗顔のため洗面所で顔を洗っていると下宿屋のおばあさんに声を掛けられた。おばあさんは近くの食堂で皿洗いのアルバイトを頼まれてくれないかという話をした。下宿のすぐ東の方にある「辰巳食堂」で川村君とペアで午後6~8時の食堂の掻き入れ時、手が足らないから時給500円出すので頼まれてほしいということであった。全く働く意欲はなかったが仕送りの他に臨時収入は助かるし、川村君と一緒だと気が楽だと思い、色よい返事をした。部屋に戻る前に川村君の部屋をノックして引き戸を引いた。川村君は毛糸の帽子を被って寝ていて、薄い毛布に包まりビアフラの難民のように身を縮めて呻きながら僕の方を見た。食堂でのアルバイトの話をすると、川村君も気乗りがしないが引き受けたということだった。今日6時前に一緒に辰巳食堂に行こうという話をして引き戸を閉めて自室に戻った。部屋で机に座って、「大学への数学」という受験雑誌を見ていたが高校時代からかなり数学から遠ざかっていたので基礎知識不足で理解が難しく眺める程度しかできなかった。昼を過ぎて空腹感を感じたので飯を食いに出かけた。岩倉駅前の「大扇」という食堂へと向かった、「大扇」で野菜炒めとご飯大とみそ汁を注文して食べた。大扇を出てすぐ近くの岩倉書房で雑誌などを見たがこれという記事もなく下宿に帰った。京都に帰ってきてからまだ1回も大学に行っておらず下宿で燻ぶっている。1回生の現在、今年取得可能と思われる単位はほとんどない。高知に帰っていた時2浪している山口君や岡崎君の影響を受けたことや同志社大学での学生生活が一人ぼっちであることや環境や体調の悪さも手伝って在学浪人して東京に出たい等と考えるようになっている。高知に帰った時には父に早くお寺に行って日蓮法華宗で信心をした方がいいと言われるが、今の生活ではとても無理だ。それと大学に入ってから実存哲学の影響を受けて小難しい理屈を考えたりしている。サマーセット・モームの「人間の絆」を読み耽っていると午後6時が近くなり、ジーンズとトレーナーに着替えて辰巳食堂のアルバイトに出かけることにした。川村君の部屋をノックして川村君と一緒に出掛けた。辰巳食堂は下宿の裏手の対面交通がやっとできるくらいの道路縁の少し奥まったところにあった。店に入ると既に座席で客が飯を食っていた。落語家のはせさんじに似たマスターと助手の小柄だががっちりした体格のにーちゃんが働いていた。エプロンを着けて洗い場に立った。流し台はお湯と水が入っていてお湯で洗って水で濯ぎ、布巾で拭いて乾かす一連の動作を川村君とペアでやった。6:30を過ぎるころから多くの学生が店に入ってきてごった返した。次々と山のように積みあがる皿を言葉に出して愚痴りながら片づける川村君に共感を覚えながら要領悪く皿を洗った。8:00近くなってももたもたと飯を食って帰らない客を声に出して帰れと言わんばかりの川村君と共に呪いながら閉店を待った。客が帰って、アルバイトについている食事で「若鶏定食」を川村君と一緒に食いながら話をした。マスターの作った若鶏の足のフライはたれが絶品で旨味のある物だった。

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