モッツアレラチーズ2 伍拾参

そろそろ梅雨に入るだろう。栗の木にはどんよりとした空から薄日が差している。今予備校にて居る。1講目の新開佐平先生の英文法が終わって、喫茶店「クローバー」に呼び出された。クローバーに行くと、広田君と門田君などと一緒に校内でよく見かける予備校生の女生徒が席に座っていた。広田君が特等席という感じで僕をこの女の正面に座らせた。この女は森尾という土佐高卒の予備校生で、広田君がファンである歌手のアグネスチャンにどこか顔立ちが似た比較的大柄の美人だった。女は僕に出身校を尋ねた。「追手前です」と僕は答えた。すると女は「学芸かと思うた!」と言った。追手前は土佐高の女には相手にされてないと感じながら、白けた気分で小さい厚手のコーヒーカップに口を付けた。女はいろいろと土佐高の話題を提供してくれた。僕は小学校の同級生や中学3年の時同じクラスだった安芸君が土佐高に通っていたので興味深く話を拝聴した。安芸君は京大の法学部に現役で合格していたとのことだった。広田君は脇からこの女に自分は台風の最中に女性と抱き合いたい等と口角泡を飛ばしながら持論を力説していた。話も尽きて喫茶店から出た。この頃授業は大体1講目だけで後はお休みするのが常となっている。谷君や西森君と一緒に参考書を持ってお城の堀の直ぐ南にある高知市民図書館に行った。市民図書館の2階の東側が閲覧室になっていた。西森君と谷君の後を付いて行くと谷君が席に腰かけている女子学生の前で止まった。土佐女子高校の制服を着た女学生が6人掛けの席に3人座っていた。土佐女子高校のセーラー服には紺地に2本の白線が通っているので土佐女子高校のことを通称「ツー」と言う。谷君は知り合いのツーの女生徒の一人に声を落としながら掛けた。女生徒は川端康成の「古都」を読み耽っていた。「ベランダで話さん!」と谷君が言った。谷君と一緒に女性と3人と西森君がベランダの方に向かったので僕も同行した。女生徒3人は小倉さんという小柄で歌手の麻丘めぐみ似の人とひろこちゃんはロゼット洗顔パスタのクロちゃんみたいな感じの人で後は、さおりだった。僕はジーンズに白地に濃いオレンジと黄のボーダーのTシャツにブルーで垂れ目のサングラスを掛けていた。広田君はこの格好の僕が遠目にジェームス・ディーンのようだと言っていたが、僕はその気になっていた。不意に今日はなんか急に女づいているなと思った。小倉さんは大人しい感じの文学少女らしかった。ひろ子ちゃんは「ファイアーマン2号を募集しゆう!」と言っていた。どすの効いた声で話すさおりは男勝り風の人らしい。ベランダでの話が終わって、席に着き森一郎の「試験に出る英文法」にサインペンで色を付け乍ら一頻り読んだ。どちらかというと文法事項を覚えるよりきれいに本に色を付けるのが楽しい。ものの30分も経たない内に図書館に来ていた橋本君たちと一緒に図書館の数軒西隣にある喫茶店「トレボン」に昼食を取りに行った。喫茶店に入り浸り、そういう荒れた生活になっている。喫茶店での話は多岐に渡るが、やはり予備校生の常で受験の話と女の話が多い。哲学的な話もするが、大概ちんぷんかんぷん、意思疎通不能状態の迷路に入りこんでゆく。世間の人は親の顔が見たいと思うだろうが、自覚することを奪う暴力的な時代の流れには逆らえないでいるのである。180円のオムライスを注文した。オムライスが運ばれてきたが1見して旨そうで量が少ない。デミタスソースを卵全体に押し伸ばした。端からスプーンにとって口に運ぶ。チキンライス全体を上手く卵に包んであるので微妙な味が更に引き立っている。「癖になるわ!このオムライス!」と思いながらあっという間に平らげた。2人掛けの席の向かい側で橋本君が食後の1服を燻らせながら「しわいねや!おんしゃあ!」とサングラスをお絞りで拭いている僕に向かって言った。喫茶店のはしごが終わり予備校に帰った。予備校では山﨑先生の4講目が始まっていた。席に座って、「チャート式新総括日本史」にサインペンで色を付けていたが、サインペンが付かなくなり帰り支度をして脱講した。家に帰るともう駐車場に弟の自転車があった。3階に上がって、父の部屋を見ると父はロバのデッサンをしていた。最近弟との共同使用の部屋には間仕切りが入ったので尺八の音も直接には聞こえてこない。僕は今家族の中で全く違う時間と空間の中にいるようだ。

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