モッツアレラチーズ2 伍拾壱

今年も変わらずお城の桜が咲いて、窓を開けると春風を肌に感じ始めた。「サクラチル、サイキキス」の電報を受け取ってもう1週間以上経った。早稲田大学法学部は不合格。中央大学商学部も音沙汰なしで不合格。僕の立場は春だというのにすでに桜が散って、木枯らしが吹き始めている。「あっしにゃあ 関わりないことで ござんす!」と通り過ぎていくわけにはいかない。イチロー、これがこの1年間の僕の立場になる。今日は学校に何も持って行かない。卒業式だから。3年5ホームの教室に生徒が揃って、卒業記念の寄せ書きをした。僕は色紙に中字のマジックインキで「人生は男の詩」と書き入れた。卒業式を控えて、なんとなく本宮ひろしの漫画の主人公のような心持だったからである。卒業式は追手前高校の敷地の南東の角1面を占める講堂で行われた。卒業生460名が入場し、岩貞校長の話、PTA役員の話、送辞、答辞、卒業証書の授与と式次第通り遅滞なく式は進み、最後に「蛍の光」の斉唱となった。僕は中学校の卒業式の時と同じようにこの歌を口を丸く、大きく開け万感の思いを込めて熱唱した。脳裏には楽しかった3年間があれもあった、これもあったと走馬灯のように巡った。

教室に帰って、卒業証書を受け取るのを待った。3年5ホームも現役で大学へ進むもの、公務員となるもの、1年浪人して大学入試の準備をするものに分かれていた。転校生の上岡君は現役で岡山大学に合格し上機嫌で僕に話しかけてきた。福島君は広島大に合格したとこれも機嫌がよかった。岡崎君は自宅浪人、殿川君も浪人ということであった。卒業証書をもらった後、僕は田内君や殿川君など浪人することになった生徒と一緒に浪人生が通う土佐塾予備校の入学を決めることにした。教室では制服のボタンをもぎ取って女生徒に手渡している男もいた。これを見て僕は複雑な思いに駆られた。この3年間いろいろな行事例えばファイヤーストームの時のフォークダンスとか運動会とか遠足とか全然女生徒との関わりはなかったなあ。剣道部は胸毛の男の世界だったし。女性徒との会話と言えば、何かの代金の不足分5円を会計係の今村さんに求められて、不機嫌そうに「おつりはないでえ!」と言われたことぐらいしか記憶にない。卒業証書を受け取ってから皆教室を出て、南の正門から話をしながら三々五々出て行った。田内君たちと廿代橋の神社のそばにある土佐塾予備校に行った。有名大学の今年の合格者などが受付前の壁に張り出してあった。受付で話を聞くと明日文系、理系各クラスの選抜試験があるということであった。受付前にあるソファに腰かけていると隣の男が話しかけてきた。山本という高知高卒の生徒だった。追手前卒の者も田内君や殿川君や共産党の門田君など数名いたが、何人もの高知高校卒の生徒に声を掛けられた。田内君は高知高校の生徒を疎んじていてあまり話をしなかった。高知高校の西森、広田などと一緒に予備校の近くにある「クローバー」という喫茶店で話をした。まだ昼食を済ましていないということで飯を食うことになった。それで僕はカレーを注文した。美人のウエイトレスが持ってきたカレーは非常によく煮詰められたものでラッキョウが添えられていた。堅めのご飯がうまかった。西森は小柄だがかっちりした体格の男で僕と同じ法学部を目指していると言っていた。広田はひょろ長く、色が黒い男で「えろた」と高知高校の皆に呼ばれており、慶応大学の経済学部を目指していると言った。高知高校は私立高校なので公立の追手前の生徒と比べると喫茶店などをよく利用するような身持ちの悪さがあると思った。店を出て、高知高校卒で小太りの谷君に挨拶をして別れた。これは1年間思いやられるわ!と思いながら家路を急いだ。

 

 

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