モッツアレラチーズ2 肆拾壱

もうすぐ夏休み。栗の木にはアブラゼミがじーじーと鳴いている。家族4人での朝食が終わって3階に上がり、鞄に教科書を入れる。学期末のテストが終わって、短縮授業になっている。弟は梅ケ辻の土佐中までの通学に20分ぐらいはかかるので先に出て行った。いつもより軽い鞄を自転車の後ろの荷台に括りつけてから学校に向かった。授業が始まり、1時間目安岡先生の英語から3時限目水野先生の古典乙Ⅰまで事故もなく終わり短縮授業は終了した。部活の剣道部では夏休み過ぎると3年生が大学受験や就職準備などであまり部に出てこなくなるので2年生中心になる。今日は部室で夏休みすぎの3年生の活動の予定などを立てるため稽古は休みになった。家に帰ろうかと思ったがまた学参を漁りたくなって帯屋町の金高堂書店へと向かった。店の前に自転車を止めて、店の中に入ると正面の突き当りに学帽も被らず、にやけた顔の吉村君の姿が目に入った。近寄って行って後ろから覗くと、彼女いない歴16年の吉村君はチッチとサリーの「小さな恋の物語」をにやにやしながら読んでいた。僕は「そうか彼女がいないから」と思い、ここは声までかけまいと思いながらその場を離れ2階の学参コーナーへと向かった。学参コーナーでベストセラーの帯の付いた森一郎著「試験に出る英単語」を買い求めた。英単語は「赤尾の豆単」を持っているが見出しの単語が8000語もあり「A」のところだけ繰り返し覚える結果になっているからである。「試験に出る英単語」は1000語ほどで親しみ易かった。本を買って、帰ろうとすると入り口で吉村君と一緒になった。入り口付近で受験の話などをしていたが、ここでは話ができないということで僕のうちに遊びに来ることになった。2人で自転車に乗り永国寺町の我が家に10分ほどで着いた。駐車場に自転車を置いて3階の僕の部屋に案内した。父も母も出かけていた。自分で1階の台所の冷蔵庫にあった森永コーヒー牛乳を2人分コップに入れ盆にのせて3階に持って行った。一頻り受験勉強の話をしたが、吉村君は工学部を受験する腹積もりだと言った。僕は数学の成績の低迷からすでに心は理系から文系へと移っていた。高木彬光の「検事霧島三郎」の秋霜烈日に心を打たれ、「剣道部向きや!これは!」と思って法学部志望が頭にちらついて居た。「早稲田の法学部とかええなあ!」と僕が言った。吉村君はせせら笑う笑みを浮かべて、「ほーー!」と言った。話だけでは間が持たないので将棋を競うことになった。弟の大事にしている道具箱から本榧(かや)で作った足付きの将棋盤と象牙の駒を持ってきた。吉村君は「すごい上等なもんやねえ!」と言いながら将棋盤に駒を並べた。僕は小学校の頃少し将棋を覚えたことがあったが、駒の並べ方、動かし方の他にいくつかの戦法は知っている程度だった。自然体の僕の将棋に対し、吉村君は考える将棋だった。飛車の頭の歩を突いて、角道も空け、相手方左隅の香車を取って成りこむ初歩的な戦法は吉村君には通用しなかった。吉村君の棒銀に苦しめられ、時々思考力が途切れがちになり惜敗を繰り返した。結局5連敗して、吉村君が勝ちすぎでやる気を失ってから急に僕の戦法が効を奏しだし2連勝した。2勝5敗の無念な終わり方だったが、吉村君が用事を思い出して帰ることになり、駒を片付けた。漫ろ寒い心持。吉村君を玄関で見送りながら勝負事で負けることの手痛さを感じていた。

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