モッツアレラチーズ2 参拾伍

年も明けて、栗の木ではふくろうがほーほーと鳴いている。父に頼まれ木の梯子をかけて玄関のしめ縄飾りを外した。3階に上がると弟が部活で使う尺八を布の袋に入れて学校へ行く用意をしていた。昨年の12月に県民ホールのオレンジで全国学生邦楽演奏会があったが、弟は中学性の部の県の代表として出場した。代表とは言っても高知県の中学生で尺八を習っている者は十名足らずしかいない。演奏会の時、県民ホールではなんでこんな広いところでやるのだろうと思うほど演奏者も観客も少なく疎らに座席の数列に人が座っていた。僕は一番前の列の席で演奏を聴いていた。プログラムを見ると弟の演奏はプログラムで一番初めの中学生の部の2番目になっていた。会長の挨拶など簡単なあいさつの後ステージの用意ができ、中学の部からのアナウンスがあった。続いて、「1番東京都 阿佐ヶ谷中学校島之内一志君 津軽じょんがら節」とアナウンスされた。ステージの中央に椅子が用意され、三味線を抱えて紺色の学生服姿の中学生が入場した。ぱちぱちぱちと拍手をもらってから中学生は少し三味線をチューニングをした後演奏し始めた。「ちゃんちゃららん、ちゃんちゃららん」と中学生とは思えない様な巧みな指捌きで力強い演奏だ。津軽じょんがら節というまるでエレキギター用の曲のようなハイテンポの曲を見事に演奏した。ぱちぱちぱちと疎らな観客の拍手を背に楽屋に引き上げる姿に「一音も間違えなかったろう!この中学生は」と感心しながら弟の演奏のできを心配した。「2番 高知県 土佐中学 浦成君 姿三四郎」とのアナウンスと伴に中央の椅子の横の垂れ紙が捲られ「尺八 姿三四郎」の文字に代えられた。同時に緊張した面持ちで袖に1本の白線をあしらった学生服姿の弟が尺八を手に現れた。弟は椅子に座って目の前の楽譜をぺらぺらと捲ってから楽譜に目を落とし、首を左右にゆっくりと動かしてしてから唇を尺八に当て演奏し始めた。「まちがえんろうか!」と手に汗を握ったが、弟の演奏は家で聞くのとは段違いの出来だった。出だしから音がはっきりと出、かすれたさびのある音、境に入っては心なしか首を小さく振りながら日本情緒も豊かな「姿三四郎」の曲調を滲み出す演奏をした。演奏が終わって、ぱちぱちぱちと割れんばかりの拍手がホール内に木霊した。楽屋に行くと師匠の山﨑先生と放心状態の弟がいた。山﨑先生は中年でかなり腹の出た頭を七三にポマードでねっとりと固めた先生だった。「金賞やないかえ!」と弟に声をかけた。「今日は全然間違えんかったきねえ!」と弟は胸を張った。結局弟は津軽じょんがら節を抑えて中学生の部で金賞に輝いた。弟と一緒に階下に降りて家族4人でトーストとサラダとミルクの朝食を済ませ学校に出かけた。正月の間寒稽古で力が入りすぎて、肩を凝らして風邪をひいた。今日まで未だ風邪の余韻がしつこく残っていたのでげっそりと頬はこけ、顔色は悪く、教室の隣のトイレの鏡で見ると幽鬼のようだった。「死ぬぜこりゃ!死相が現れちゅう!」と思いながら教室に入った。教室で吉本さんに「どうしたが浦成君!前はかわいかったに!」と声を掛けられるほどだった。呆けた様な状態が続いたものの何とか授業を乗り切り、帰り部室によって今日は体調が悪いので休むと声をかけて、駐輪場に向かった。駐輪場で帰宅前の田内に声を掛られた。風邪の話をすると田内は「栄養付けや!」と言って食事に誘った。大橋通の「寿司柳」という店に二人で入った。田内は蒸し寿司を注文したので、僕も同じものをと注文した。寿司柳の蒸し寿司180円也。運ばれてきた蒸し寿司はうまそうだった。桝のような木の器に蒸し込まれたちらし寿司。上には小さなえびと錦糸卵がのっている。美味しかったが量が少ないのであっという間に食べ終わった。「ここの蒸し寿司うまいろうが!」「そうやねえ!食べ応えはないけんど!」と寿司柳で別れた後家路に就いた。  

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