モッツアレラチーズ2 陸

夏休みが終わり、今日は最初の登校日である。夏休みの宿題である5教科のワークブックや美術、技術家庭の課題などを提出する。美術の宿題は弟の撮影した県鳥であるヤイロチョウの写真を参考にしてモザイクのデザイン画を描いて提出した。技術家庭の宿題では小ぶりの椅子を樫の木を切り揃えて、釘で打ち付け、水色のペンキを塗り、きれいにニスで仕上げたものを提出した。この椅子は実用的にも長く使えるものに仕上がっていた。宿題の提出が終わると、夏休み前に行われた中間テストの結果が返された。答案用紙と一緒に5教科の成績とクラスでの席次が書かれた票を渡された。票を見ると数学と英語が満点で理科、社会はそれぞれ90点、82点。国語は90点で総合得点462点でクラスでの席次は1位であった。勝賀瀬君に試験の結果をそれとなく自慢すると勝賀瀬君は浦成の頭が良いのではなくこのクラスの他の生徒の頭が悪すぎるのだと嘲られた。僕は丁寧にこの席次の書かれた票を教科書に挟んでしまい込んだ。この日は授業もなく午前中で終わった。1年2組の教室を出て、プール下の剣道部の部室に向かった。剣道部では今日から数日掛けて秋の市の体育祭の試合に向けて選手の選抜のトーナメント戦を予定していた。部員は15人なので京島先輩が1回無試合で勝ちあがり、他7試合、続いて勝ち上がり4試合、さらに2試合、決勝1試合である。部室の前にある百葉箱の設置してある芝生の上で母に」作ってもらった海苔弁当を京島先輩と話をしながら食べてから、講堂に向かった。夏休み明けでいつも講堂で練習している、器械体操部と柔道部は休みで講堂を開けてもらっていたので講堂を広く使え、3組に分かれてトーナメント戦を行えた。1年生ではまだ剣道着を作ってもらっている生徒は少なかった。それで青いジャージに防具をつけて試合をするのだが、今回のトーナメントで出場する7人に選ばれれば剣道着を作ってもらわなければならない。防具は自前のものを武蔵堂で勝ったが、この日は剣道部に備え付けのものを使った。面をつける前に頭に日本手拭いを捲く。これを剣道部に入部をしたての頃手本を見せてもらって習ったが、正式な捲き方は手順が複雑で覚えきれず姉さんかぶりに毛の生えたような簡易な捲き方をしていた。剣道という武道は万事このように込み入った手順や作法があるのだが、こういった正式な手順や作法を1つ1つコツコツと身に付けていく剣士は1角の選手になるのであろう。こういった剣士を佐々木小次郎型の剣士といえば差支えがあるかもしれない。僕はもちろん宮本武蔵型の剣士を目指していた。中学の剣道部は、殊に城北中学の剣道部はあまり強豪ではなく、指導する先生や先輩も少ないので正式な型や作法を身に付けることは難しい。勢い自己流になってしまうのであった。トーナメント戦の1回戦は1年生の武村と戦うことになった。前の組は松井と佐々木の対戦であった。頭に日本手拭いを捲き、防具を右脇に置いて観戦していた。2年生の佐々木は身長が180㎝近くある男で右上段に構えていた。一方松井は1年生で中肉中背、オーソドックスな中段に構えていた。一瞬、佐々木は床を蹴って飛び道具のような面を放った。この打った音がはっきり聞こえるほどの面が決まり、松井は棒立ちになっていた。米津先生が旗を揚げて「面1本!」と言った。前の試合の勝負があっけなくついたので心に準備のない状態で防具をつけ立ち上がった。武村と僕は向き合って一礼をし、蹲踞の姿勢から「始め!」の号令とともに戦いに入った。武村は小柄でまだ小学生のような体格であった。しかし、動きはなかなか俊敏で日頃の対戦では引き小手を得意としているようであった。その所為か向き合っても全然前には進んでこない。不用意に前に出ると引き際小手を抑えられる危険があると思った。面は縦、横に筋金が入っているが、物見(ものみ)という部分は前が見えるように筋金の間隔が広くなっている。この限られた視界から相手の動きを見ていると相手の呼吸や動きが却ってよく伝わってくるように思われた。上背のない相手は面打ちに限る。僕は日頃からそう考えていた。前に出て相手が引いて小手を取りに来る瞬間を狙って、さらに1歩踏み込んで面を打とう。このアイデアが頭に閃いた。じりじりと前に出て仕切り線近くまで追い詰めた。武村が引いて小手を取りに来る瞬間床を蹴って面を打ち込んだ。見事に面が決まったが、浅いかと思いながら米津先生を見ると旗を持つ腕が上がっているのが見えた。「面一本!」。武村の悔しさを慮りながら、しかしジャージに防具をつけた不格好な自分の姿がイメージされるので勝利の高まりは打ち消されて平常心に戻り、1礼をして場外に出た。ここで勝って、もう1勝すると秋の市の体育祭の選手に選ばれる可能性が出てくる。剣道は力ずくよりも駆け引きや呼吸、集中力、平常心といったことが重要な競技なので、負けた時ねじ伏せられた悔しさはないが、相手との精神的な力の差というものは年月によってしか贖われないという絶望感はあるかもしれない。午後4時を過ぎて、南の校門から自転車で帰宅した。

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