モッツアレラチーズ2 伍

城北中学は7月24日から夏休みに入っていた。休みは9月初旬まで続く。中学生の僕にとって生活の中心は5教科のワークブックと各教科の宿題である課題を毎日こなしていくことと部活で剣道部の市の体育祭に向けての夏季練習であった。夏休みに入ってもう1週間が過ぎたが、夏休みでも生活の規則正しさは朝で決まる。父は3階の隣の部屋で朝6:00から読経、唱題を始めるので大体読経を終えて題目を唱え始める6:30頃には目が覚めるのであった。少し前から父に朝一緒にお勤めをしないかと誘われていたが1時間半もの間正座ができる自信もなかったので生返事をしてはぐらかしていた。しかし、父のお勤めは非常に荘厳な雰囲気を湛えており、中学生ながら父の信仰している教えのただならぬ力を感じていた。父はずっと洋画を描いていたからであろうが、在り来たりの日本人の大人から言えば衣服や持ち物などモダンな感じの人である。ただ最近は日蓮法華宗に入信していたせいか東洋殊に日本を指向しているようであった。書道を先生について習い始めていたし、水墨画のことについて書かれた本を読んだり、水墨画展にも所構わず頻繁に出かけていた。父のお勤めによる影響を受けて、僕は朝7:00にはベッドを離れ朝の支度をして7:30から家族4人での朝の食卓を囲んでいた。今日は午後、父と剣道の防具1式を追手筋にある専門の剣道用品店である武蔵堂に買いに行く予定であった。剣道をし始めてまだ4か月足らずであったが、相手と1対1で向かい合う緊張感や研ぎ澄まされたある種のコミュニケーション感覚また面が1本決まった時の爽快感等が気に入っていたので中学高校と続けてやって行きたいと考えていたからである。朝食を済まして食器を洗っていた。我が家は父も僕も弟も自分でできることは全てセルフサービスでやっていた。母は主婦でありながら勤め人でもあるので時間に余裕がないからである。母は僕や父から見ると何でもしてあげたいような雰囲気を持つ女性であった。それでセルフサービスは特に母が催促するわけでもなく自然にそうなってしまったのである。3階の自室でワークブックに取り組んだ。数学で1次方程式の問題などを解いていると小学校の時習った文章題等は方程式を使えば考えなしに式を立てて解けることがわかる。小学校の時はなぜ図を描き考えて解いていたのだろう。座っている学習机の椅子を回転させて後ろを振り向くと、弟が望遠鏡で庭の栗の木に止まっている鳥を観察しようとしている。夏休みの図画工作の宿題に鳥の写真を写して出そうと思っていると言っていた。天体望遠鏡で鳥がうまく見えるのだろうかと僕は疑問に思ったが、弟は自信ありげに望遠鏡を覗いて調節していた。この弟は近所の子供と一緒に遊んだりすることもなく、鳥を観察したりパズルをしたりして遊ぶような孤独で大人びた少年である。弟はぼくよりは勉強好きで成績もよかったが、望遠鏡とかパズルなどなかなか手に入らない、しかも小学生には高価なものを求めて遊んでいた。父は弟が望むような普通の小学生が手にできないものを不思議にもどこからか調達して来ては喜ばしていた。今日は剣道部の練習も休みで登校する必要もなかったので午前中、ワークブックの問題を解いたり、庭に出て木刀の素振りなどをしていた。家の庭はそれ程広くはないが車が2台は置けて、草木や花が塀の内側に手入れの行き届かない花壇のように植えられている。昼になって、父がお多福食堂に3人分のうどんの出前を頼んでくれた。出前が届いて父と弟の3人でけつねうどんをすすり乍ら、最近の小中学生の間で流行っているグループサウンズに見られる日本人の外国の物まねぶりについて語り合っていた。昼過ぎに予定通りホンダのクーペに乗って父と武蔵堂に剣道の防具を買いに行った。父は車のことで相変わらずモッツアレラチーズ現象に悩まされていたが、信仰で不動心を培ったせいか、ホンダの車のアレにたじろぐことは少なくなっいた。追手筋にある武蔵堂まで車で5分とかからなかったが、帰りに防具を持って帰らねばならなかった。急に背が伸びる中高で使えるようなもをということで選び、胴の下に名前を浦成と入れてもらうように頼んだ。30分ほど店内の剣道用品を眺めて待っていると防具を車の中に納め終わったというので、防具代の4万円也を支払って家路に就いた。

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