モッツァレラチーズ9

小学4年生の夏休みはそろそろ終わりに近づいていた。洗顔を済ませ、家族4人揃って食卓の椅子に座った。テーブルの上には、女中のKさんが用意してくれた朝食が其々置かれていた。ステンレスの製の銀のトレイ。上には生の食パンが1枚、オニオンスープ、カップに入った温かい牛乳、小皿にはアーモンド、紙に包まれた四角いマーガリンが1個、食器は箸、スプーン、バターナイフが載せられていた。我が家ではパンは決まって生パンでトーストは食べた記憶がない。朝食は20分で終わる。父が話題を提供していろいろと話をする。私と弟は自分から話しかけることはほとんどない。父も母も慎み深い人だったので、弟も私も両親の期待を言外に感じていたからである。母は人柄のよい人だったが、口調はきっぱりとしていて、ときどき厳しかった。朝食を済ませてから、3階の子供部屋に戻った。階下から掃除機を持ってきて、絨毯のごみを吸い取り、学習机や2段ベッド、洋服ダンスなどを丁寧に雑巾で拭いた。夏休みの宿題であるワークブックはとうに終わっていた。後には図画工作の宿題の椅子作りが残されていた。当時、市内の私立中学に進学を希望する生徒は4年生から進学塾に通っていた。私は公立中学に進学しようと考えたいたので、学校から与えられた教科書などの教材以外はほとんど読んでいなかった。だが、この夏休みは父が間違って買ってくれた小学校高学年用の算数の本と漢字の問題集を読んでいた。算数の本の読み方は計算をしながら読み進み、分からない問題や答えの出ないものはそのまま放って顧みないで読み進むという読み方である。漢字も覚えられるものだけ覚え、覚えられない漢字は無視していた。図画工作の宿題の椅子は見取り図が完成していた。後は材料のラワン材を寸法を合わせてのこぎりで切り、釘を打って、色づけのためのペンキを塗る。色はブルーに決めていた。永国寺の自宅には15坪ほどの芝生と花壇のある庭があった。庭にビニールシートを敷いて、椅子を作った。足をはめ込む窪みのついたラワン材の四角い板に足を4本釘で打ちつけるだけの簡素な椅子だが、ブルーのペンキを丁寧に塗り付けるとなかなか見栄えが良いものに仕上がった。何となく実用的なものができて満足だった。図画工作の後片付けを済ませて、3階の子供部屋に戻った。部屋に父が入ってきて、午後から弟と私の3人で散髪に行くことを決めた。父が作った昼食のうどんを食べ終わって、3人で散髪に出かけた。駐車場のある知寄町の理髪店である。予約制ではなかったが、いつも土日の午後散髪に出かけていた。たまさかその日は超満員で散髪してもらえそうにはなかった。仕方なく、愛宕の駐車場のある安い理髪店に寄った。この理髪店は値段の安いお店だった。幸い客は来ておらず、3人ともすぐに散髪してもらえることになった。父は理容師の質問に答えながら、髪の切り方に注文をつけていた。父は前髪を短めにするように注文をつけていた。私と弟の散髪はすぐ終わり、父の散髪が終わるのを椅子に腰をかけて待っていた。散髪し終わった父の顔が鏡に映っていた。前髪が異常に短く切られ、サザエさんのわかめのようなおかっぱに切られていた。これは理容組合のモッツァレラチーズである。理容組合は不満のしわ寄せを父に食わせた。帰りしな父はミラーに映った自分の横顔を見ながら髪に手櫛を入れ、ボタンダウンシャツの襟を直していた。

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