モッツァレラチーズ5

その日私は、学校が休みだったので家にいた。小学校当時、休みの朝は野球などの試合に誘われない限り、掃除と洗濯をしていた。掃除は3階の子供部屋と廊下の拭き掃除で、洗濯は下着のほかにズボンやシャツなどもしていた。洗濯物は旧式の洗濯機で洗い、ローラーに洗濯したものを挟んでハンドルを回してしぼって、2階のベランダに干していた。父が自分の身の回りのことは自分でするように私と弟に勧めていたからである。だが、アイロンがけは難しかったのでKさんにしてもらっていた。洗濯と掃除が終わって、3階の子供部屋に戻った。この日特に予定はなかったが、父が県民ホールで行われる美術協会の講演を聞きに行くことになっていたので、他にすることがなければ連れて行ってもらうことにしていた。ソファでくつろいでいると、母がお茶が入ったので1階に下りてくるように言ってくれた。お茶を飲んでいる時に父にアトリエにある画集を見てよいか尋ねた。3階の父のアトリエの書棚には画集や美術の評論と英語のペーパーバックが数十冊ほどあった。父はあまり本は読まず、ほとんどキャンバスに向かっていた。書棚から最近流行り出した、アメリカのスーパーリアリズムの作品集を取り出し、子供部屋に持って行って、ソファの上で眺めた。この当時、絵の理論などはもちろんちんぷんかんぷんだったが、レイアウトや色調など画家のセンス良さとか、アンバランスなどは分かるような気がしていた。お昼になって、父と弟と3人でうどんを食べた。うどんは父が調理した、ねぎと簀巻きだけが入った簡単なものである。午後になって、父と一緒に県民ホールへ出かけた。柳原の駐車場に車を置いて、歩いて県民ホールへと向かった。ホールに入って、ラウンジのソファで持参したお茶を飲んでいた。美術協会の人が父に声をかけた。父はソファーから立ちあがって、しばらく話していた。講演が終わってから、協会員が集まって講演に関する話し合いを持ちたいということだった。父は今日の論題であるキュービズムに関心が深かったので参加を承諾していた。「キュービズムの周辺の画家たち」というタイトルの講演が始まった。私は父の隣に座って、わからない話になんとかイメージを形成しようと努めていた。父は講演が始まるとすぐにうとうととし始めた。30分、1時間、90分となんとか話に集中しようと努めていたがすぐに意識を失うほどの眠気が襲ってくるようであった。結局、2時間の講演中、父はほとんど居眠りをしていた。これは協会員のモッツァレラチーズである。協会員は睡眠不足のしわ寄せを父に食わせた。父は話し合いに参加せず帰路に就いた。帰りに車を運転している父の横顔は心なしか生気が失せていた。

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